トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

ゴルバチョフ元ソ連大統領の死去に思う

この文章を執筆中の2022年9月9日の段階で本年の2月24日に開始されたロシアとウクライナの戦争はまだ続いています。この戦争については開始以来6ヶ月を経過して、さまざまな視点からの論評がなされてきました。この間、先月にはこのロシアの動きの起点となる歴史の変動のスタートとなるソ連の崩壊、解体のきっかけとなったペレストロイカの立役者であった、ソ連邦最後の大統領ゴルバチョフ氏が96歳の天寿を全うされました。氏は、昨年2021年の5月3日・創価学会の日、創価学会母の日によせて、長文のメッセージを池田先生の創価学会に寄せられました。その中において「自分のやってきたことは池田先生の思想の枝葉の一つである」と語られ、ペレストロイカの歴史的意義が究極の人類的価値に基づく、人権思想の展開であったことを述べられ、人類史の上におけるペレストロイカの歴史的意義を強調されました。ソ連が崩壊した1991年から約30年が経過した現在、あえて振りかえってみると、一瞬見えた、人類の理想の輝き、胸躍るような思いは戦争の報道の彼方に消えてしまったようです。この30年間を振り返ると、ゴルバチョフさんが池田先生との対談「20世紀の精神の教訓」のなかで、たびたび触れられておられるように、自発的に情報を公開し、平和への道、核軍縮への道へと舵を切ったロシアの動きを正しく評価せず、単純に冷戦という世界的な対立抗争のアメリカを中心とした西欧の自由と民主主義の一方的な勝利として単純に認識し、唯一の世界覇権国家として振る舞おうとするアメリカ合衆国、さらにそれに連なる西欧陣営の動きは世界に様々な混乱をもたらしてきました。その混乱について詳論はしませんが、その行為に対する一つの「応答(レスポンス)」が今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻であることは間違いありません。またその状況を、もう少しうがった見方をしてみると、ロシアはアメリカによって軍事侵攻という最終手段を使わざるを得ないような方向へ追い込まれていったと言う見方も成り立つかとも思います。しかし、20世紀に人類が経験した二つの世界大戦という人類史上未曾有の悲劇、人間の何千万単位での大量死という現実に対して、その悲劇を二度と繰り返してはならないと、〝英知〟を集約して作られたシステム、国際連合による世界平和維持のシステムにおいて鍵を握っている常任理事国が起こした〝戦争〟はそのシステムの崩壊を象徴している事実であることは間違いありません。今、ゴルバチョフさんの死を前にして、もう一度、ペレストロイカの歴史的意義に立ち返り、発想し行動すべき段階がやってきているように強く感じています。