トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

2020-01-01から1年間の記事一覧

世界史教育とトインビー博士の歴史観

私が東京教育大学の西洋史を卒業して、創価学園に奉職したのは、昭和48年の4月のことであった。それ以後、中学・高校の社会科教諭として、主に世界史を中心に授業を持つことになった。以後、定年退職後の管理職の時代を含めて45年近く教壇に立って世界…

現代において高等宗教に求められる条件・・・・山本新先生の記述より(月刊世界政経1976年1月号「トインビーの歴史的宗教観」―文明興亡の鍵を宗教に求める巨人の最終史観)

山本新先生の記述(月刊世界政経1976年1月号「トインビーの歴史的宗教観」―文明興亡の鍵を宗教に求める巨人の最終史観―)を引用する。 ① 他の宗教を邪教のように悪しざまにののしってでなければ、自分の宗教の正しさが証明できないと思い込んでいる排他性、…

「人間事象に基本活動があるか」 .……宗教こそ基本的活動 再考察23巻

歴史の研究、再考察23巻の補論の冒頭で、トインビー博士は「人間事象に基本的活動があるか」という題で短い論考を行っています。この論考では、人間の振るまいを記録する歴史の中で、旧石器時代の記録では、出土する痕跡がほとんど「道具」であることから、…

「西欧文明は世界国家の段階にあるのか?」・引用「西欧の歴史と前途」歴史の研究再考察 P967

" data-en-clipboard="true"> " data-en-clipboard="true">〔城川コメント:この部分のトインビー博士の記述は、最終的にはトインビー博士の文明を単位としてみてきた世界史にとって、決定的で重要な視点の転換になっています。まず第一に現在、地球全体を覆…

トインビー博士の文明の定義 再考察p508~p512

この近代西欧の言葉は混成語である。それはラテン語の形容詞の語幹〔civil〕とフランス語の動詞接尾語〔1ze〕とラテン語の抽象名詞語尾〔tion〕―― 静的な状態ではなくて以前として進行中の過程を示す語尾――から成り立っている。この言葉を文字通りに解釈する…

感想 『ヘレニズム』(城川)

感想 『ヘレニズム』(城川) 「ヘレニズム」を再度読了する。トインビー博士のこの書物は、ホーム・ユニバーシティ叢書の一冊として、岳父ギルバート=マレーの推薦によって、トインビー博士が1914年以前に執筆に取りかかったものであるが、途中二つの…

「21世紀への対話」におけるトインビー博士の生涯の課題への結論

1975年に出版された池田大作先生との「21世紀への対話」は、結果としてトインビー博士の人生最後の思索の結論を表明することになった著作です。 遺著として1976年刊行の「人類と母なる大地」をあげることもできますが、この著作は編年体の形で世界…

トインビー博士とパブリック・スクールの教育

トインビー博士の生涯において、決定的な影響を与えた要素をたどってみたとき、やはり、トインビー博士が12歳から18歳までの最も多感な青少年時代を過ごしたウインチェスター・カレッジでの生活を挙げないわけにはいかないと思います。 まず第一に、その中で…

トインビー博士の「シリアック文明」について

トインビー博士が亡くなられて、すでに45年(1975年逝去)も経過していますが、この間、『文明』を単位として、世界の歴史を見ていく研究、論述は、遅々として進んでいないと言っても良いと思います。1970年代以降、トインビー博士に関して文明評論家的な取…

フィリップ・バグビーとトインビー博士

トインビー博士関連の様々な関連書籍を読んでいくと、最もインパクトのある鋭い本質をついた批判を提出した人物としてとりあげられるのがフィリップ・バグビーです。 バグビーについては、日本のトインビー研究において大事な役割を果たされた、山本新先生、…

「現代が受けている挑戦」を読む

「現在が受けている挑戦」は英文の原題が「CHANGE AND HABIT」です。トインビー博士の著作は、ほとんど全てがオックスフォード大学出版から出されていますが、この著作は同出版局から1965年に出版されています。 この本が成立した由来は、前書きに簡単に…

「文明」から「高等宗教」への力点の変化・・・トインビー博士の世界史研究、第二次世界大戦をはさんでの変化

トインビーは、「文明」を単位として歴史をみることについて、「歴史の研究」の再考察21巻につぎのように論述しています。 「 一つの現象を説明するための第一歩は、その前後関係を発見することである。 『意味の探求は、総合を免れることはできない。より…

ハンチントンの「文明の衝突」における「文明」中心の見方とトインビー史観

「文明」とは何か? その客観的な定義を巡る問題は、トインビーの「歴史の研究」に対する数ある批判の中でも、代表的な批判点です。トインビーはこの批判点に対して当初は、「理解可能な歴史の範囲」と定義を与えています。 その検証として、英国の一つ一つ…

吉本隆明「 超『戦争論』(2002年刊)」と ハンチントンの「文明の衝突」

表題の著書は、2002年に刊行されたものであり、聞き手の田近伸和氏の問いに答える形で、吉本隆明氏が世界情勢から日本の現状に対して余すところなく語り論じているものです。 本書が出版された2002年の前年2001年9月11日には、イスラム教を背景とするアルカ…

「戦争」に対するトインビー博士の行動

前回のブログではトインビー博士の原点としての体験を踏まえた、博士の「戦争」に反対する思いと決意についてふれました。今回は、その決意に基づいて、どう行動し、戦ってきたかについて同じく「回想録」の中から引用します。 p110 戦争を廃止するために働…

トインビー博士の「戦争」廃止への思い

トインビー博士の全ての著作を通して、通奏低音のように一貫して流れ、時には学者としての客観性をあえて越えても主張されているのが、「戦争」廃止への強い思いです。 このブログの中では、「哲学的同時代性」というトインビー史学の根幹を構成する原理の発想…

トインビー博士の原点「第一次世界大戦」・・・・戦争と人間

トインビー博士は、「回想録」の第五章に「チャタムハウスにおける三十三年」と題して、博士が「歴史の研究」「国際問題大観」を平行して執筆していた時代を振り返って書いております。この部分の中に、なぜトインビー博士が全世界、全時代を対象とする真実…

世界史としてのトインビー史学・・・J.フォークト「世界史の課題」(1961)より

世界史としての「トインビー史学」に着目し、いち早く著書「世界史の課題」においてとりあげた人がドイツの歴史学者 J.フォークトです。副題に “ランケからトインビーまで” と掲げているように、西欧の歴史学において課題としての「世界史」を追求してきた流…

「歴史家トインビー」 鈴木成高

「トインビー・人と史観」より 1957年・社会思想社 「歴史家トインビー」 鈴木成高 p14.L12 ・・・距離のなかには、トインビー史学におけるもっとも本質的なもののひとつである「視野」の問題が含まれている。トインビー史学は歴史学のなかに視野…

トインビー博士と創価学会

●トインビー博士と大乗仏教、日蓮仏法、創価学会 ★トインビー博士が、東洋の国の一宗教者である私に、なぜ、対談を希望されたのであろうか。博士からの手紙にもあったように来日された際(1967年)に、創価学会の宗教運動についていろいろ耳にされ、興味…

トインビー史観と「古代末期」・・・ピーターブラウン「古代から中世へ」を読んで

「古代から中世へ」と題するピーターブラウン教授の書籍を読み、何らかのコメントを書かねばと考えて、しばらく手元に置いている。 この本は、東京教育大の西洋史の後輩で、法政大の教授である後藤篤子氏の編集したもので、ピーターブラウン教授の古代末期観…

トインビー史観 世界史確立への決意

回想録 日本版への序文 私の生涯のうち成人としての期間は今では半世紀以上になるが、私はこの年月を費やして、現代の国際問題を世界的な規模で研究し、また人類の過去の歴史を統一体として見ようと試みてきたからである。私の目ざしたことは、私と同時代の…

「21世紀への対話」実現への経緯 

●「21世紀への対話」実現にいたる経緯“トインビー博士と池田先生”話は4年前にさかのぼるが、昭和44年(1969年)の初秋、私は、トインビー博士から一通の手紙を頂いた。『前回、訪日のおり(注・昭和42年)創価学会並びにあなたの事について、多く…

21世紀の歴史家トインビー

古典教育を受けたおかげで、19世紀流の専門崇拝は私にとっては何の意味ももたなかった。この忌むべき慣行に屈したい誘惑に駆られたことすらなかった。政治、経済、宗教、芸術、科学、技術のうちのいずれかの歴史家になろうか、と考えたことはなかった。私の…

「哲学的同時代性」文明比較研究の根拠(2)

前稿では「哲学的同時代性」文明の比較研究の根拠(1)として、トインビー博士にとって、古典ギリシャ世界がどのような意味をもつのかをトインビー博士自身の「回想録」の文章を引用することによって論究してみました。いわゆる「ツキディデス体験」をトインビー…