トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

1889年にイギリスに生まれたことの影響

「歴史の研究」23巻・再考察 P1129
今や私は二度の世界戦争を生き、この第二の戦争がついに原子力兵器の発明と使用に至ったのを目にした。それ以来われわれは、それよりはるかに破壊的な爆弾を地表のあらゆる地点から他のどの地点へも送ることのできるロケットを発明した。私が生まれた時代の結果であるこの経験が多くの問題に対する私の態度を彩っていると私の批評家は指摘している。これは現代だけでなく人間の歴史全体に関係のある問題である。私は戦争を憎悪するが、同時に戦争の研究に非常に興味を持ち、それに非常に大きな注意を払っている。同時にまた私は、武力の行使が人間の歴史の歩みに決定的な影響を与えたとは認めたくない。概して私は、あらゆる種類の動的要因――軍事ならびに経済、技術の要因――の影響を最小限に評価し、精神的要因の影響を大きく考えている。
特に私は苦悩を称揚し、苦悩が時としてもたらす創造的な精神的結果を強調する。
政治に適用される時、この私の態度は私に時と所を問わず、あらゆる形のナショナリズムに敵意をいだかせた。私自身の時代の世界で私は極端なナショナリズムであるイタリアのファシズムとドイツのナチズムを批難するだけではなく、イギリス、フランス、オランダの植民地主義を批難し、大量殺戮をおこない、この惑星の表面を居住不可能にする危険を冒して世界制覇をめぐる競争に合衆国とソヴィエト連邦を駆立てる精神を私は批難する。私は統一を強く望み、世界が主権を持つ地方国家に分裂していることを悲しむ。