トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

トインビー随想

トインビー博士について、折々の感想を綴ります。                

大著「歴史の研究」で著名なイギリスの歴史家トインビー博士。2019年の本年、21世紀もすでに19年が経過しました。「20世紀最大の歴史家」と評されるトインビー博士が、86歳で逝去された1975年からすでに45年、5年後には死後50年の節目を迎えることになります。
1960年代にかけて全世界、特に日本において顕著であったように、国際問題に関してトインビー博士の見解と展望を求める動きは、現在、ほとんど見ることはできません。

 第二次世界大戦後の世界情勢を規定する米国を中心とする自由主義陣営と、ソ連を中心とする社会主義陣営の対立、いわゆる『冷戦』に関する見解と見通し。核兵器出現後の人類社会に対する歴史家としての良心に基づく見解。人類と環境についての関係性についての見解、それに基づく提言等々。20世紀後半のオピニオンリーダーとして、全世界が人類レベルの課題が顕在化するたびに、その人類の歴史を俯瞰した見識と見解を求められていたトインビー博士。現在、その存在に匹敵する知識人は存在しないと言っても良いと思います。

トインビー博士の人間史観の最大の特徴は、「全時代」「全世界」を対象とした『グランドヒストリー』『グランドセオリー』であることです。このことに関しては、未だに追随を許していないと思います。トインビー後の「世界史」としてトインビー博士の伝記「トインビー」(未翻訳)を書いた、アメリカの歴史家マクニールのものが有名ですが、そこで扱われている歴史的事実の質量においてトインビー博士には及ばないと思います。

 

 

 

「歴史の研究」は人類の歴史学の到達度において空前絶後という形容詞が当てはまる、唯一の業績であると思います。有名ではあるが、その内容が正当に評価されていない。この事実に関して残念な思いでいるのは私一人ではないと思います。私自身がトインビー史学に取り組んで、数えてすでに50年を超えました。その間に蓄積したものを、是非皆さんと共有してみたい。今そのことを強く思っています。