トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

トインビー史観 世界史確立への決意

回想録 日本版への序文

 私の生涯のうち成人としての期間は今では半世紀以上になるが、私はこの年月を費やして、現代の国際問題を世界的な規模で研究し、また人類の過去の歴史を統一体として見ようと試みてきたからである。私の目ざしたことは、私と同時代の西欧人にその視野を広げさせ、物事を地方的に眺めるのではなくて世界的に眺めるようにさせることであった。

 

 私は自分の生きてきた時代に目撃した公的な驚くべき出来事の結果、世界の他の地方に対する西欧の態度が根本的に変わるのを、目にするまで生きてきた。今日、ヨーロッパ人だけでなくアメリカ人も含めて西欧の諸国民は、日本人が一世紀前に明治維新のときに目覚めていた一つの真理に、目覚めた。今度は西欧人の方が、自分たちの地歩を維持しようとするなら隣人たちを理解しなければならない、ということを悟ったのである。特に第二次世界大戦以降の西欧の態度の変化の程は、西欧の大学において非西欧民族の言語・文学・宗教・哲学・制度・歴史を研究するための設備が増大していることによって、大ざっぱではあるが容易に測ることができる。

 私はこの変化を目にして喜んでいる。なぜなら、それは平等の立場にたって世界の諸民族を統一する方向に向かう重要な一歩である、と私には思えるからである。そして諸民族がこころよく結びつくことの基盤は、平等をおいて他にないのである。