トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

現代において高等宗教に求められる条件・・・・山本新先生の記述より(月刊世界政経1976年1月号「トインビーの歴史的宗教観」―文明興亡の鍵を宗教に求める巨人の最終史観)

 
山本新先生の記述(月刊世界政経1976年1月号「トインビーの歴史的宗教観」―文明興亡の鍵を宗教に求める巨人の最終史観―)を引用する。    
① 他の宗教を邪教のように悪しざまにののしってでなければ、自分の宗教の正しさが証明できないと思い込んでいる排他性、独善をやめて、他の宗教にも真理があることを謙虚に認めることである。これは容易なことではない。
② つぎに、宗教が現代の切実な問題とたえず折衝し、格闘していることである。これを無視したり、でなくてもさけたり、ごまかしたりしておれば、心ある人から信用されなくなり、人心をつかむことができず、時代の動きとかかわりのない形骸化、名目化したものになる。社会や文化の推進的な動きからとりのこされ、生命のない、時代錯誤な存在と化する。現在にいきているとは言いがたい。い。    
③ さいごに、高等宗教にまぶりついた付属物からその本質を剥離し、本質そのものを取り出すことである。                
 
…………(中略)…………高度宗教が生き延びるために満たすべき第一の条件は、排他性、独善性をこえて謙虚になるである。…………(中略)…………比較的わかりにくいと案ぜられる第二以下の条件について、すこし説明を加えたいと思う。現代の切実な問題をトインビーはいくつかあげている。その第一は「平和の維持」である。これは核戦争による人類の自滅をいかにしてさけるかである。現在人類がまだ生きているのは、不安定な核抑止力によってであり、偶発戦争はいつおこるかもしれない。……(中略)……これを最終的に集結させるには、世界政府をつくり、核武装をやめさせ、核エネルギーの管理をするほかはない。このような人類死活の問題に高度宗教はどれだけ取り組み、有効な発言なり、運動なりをしているであろうか。トインビーは、第二には「社会正義の促進」をあげる。社会正義とは、一口でいえば、平等のことである。高度宗教は社会的平等を促進しようとするなら、社会主義と火の出るような折衝をかさねなげればならない。宗教的社会主義を作るまでに格闘していかねば、階級対立にまともに取り組んだことにならない……(中略)……社会正義の問題は、階級問題だけではない。異民族と正しい関係に立つという民族問題もある。日本における朝鮮人問題に、宗教家が良心的に取り組んでいるかというと、これはもっと心細い。皆無に近いのではないか。……(中略)……高度宗教が生き延びるための「本質剥離」についてすこしばかり説明してみたい。……(中略)……他の文明へこの高度宗教を普及しようとするとき、文明の着色である付属物を本質からはがし、本質を取り出し、それだけ他の文明へ移植するのでなければ、本質と付属物を一緒にのみこませようとすると、必ず失敗する。