トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

「トインビー」 ①はじめに 2021/3/17

 2021年3月16日、創価学園では51期生の卒業式が厳然とおこなわれました。創立者池田先生からは、祝福の和歌「宇宙大 無限の力を 君 持てり 信じ託さむ 勝ち切る 勇気を」とともにメッセージを頂きました。その中で池田先生は、「一人一人に勝利の月桂冠を」と卒業生のこれまでの取り組みを称賛。さらに「『価値創造』の生命を限りなく発揮し、人類の未来を、希望へ平和へ繁栄へ、勇敢に開拓していただきたい」と期待を込めて呼びかけられました。
今回、卒業するのは東京では高校51期生。東京学園でスタートした草創の一期生以来、綿々と続いてきた「黄金の連鎖」が、50期生を一つの区切りとして、次の新しい段階に入ったという象徴と見ることができます。
 この意義深き3月16日に、ライフワークとして長年研究・準備してきたトインビ―博士についての著作の執筆を開始しました。この中では、トインビー博士の人生を縦軸として追いながら、いくつかの時点で、その段階での事績に検討を加え、最後の池田先生との「21世紀への対話」に至る経緯を明らかにしていきたいと考えています。
 創価学園の卒業式の内容から始めたのは、私自身の立場を明らかにするためです。トインビー博士は、ひとつの著述に求められる客観性と公正さは、その執筆者が自分の立場を、ありのままに正直に示すことであると書いています。私自身は、池田先生が創立された学園である創価学園に、1973年(昭和48年)以来、2019年(令和元年)に常任理事として退職するまで、46年にわたり在籍しました。その間、2005年(平成17年)から2015(平成27年)にかけては、東京学園長として仕事をさせていただきました。この期間には、創立者池田先生への海外の大学・学術機関からの顕彰が相次ぎました。池田先生への授賞は創価大学で挙行されることが多く、その授賞式と前後して、池田先生を創立者としている小学校・中学校・高校として、創価教育が実際に行われている様子を見学したいと、創価学園訪問を希望された海外大学・学術機関の総長・学長クラスの方々を、お迎えする機会が多数ありました。ほぼ一週間に一度の頻度で、お迎えしたこともあります。その来賓の方々とお話しながら、必ず話題になったのは創立者池田先生とトインビー博士との対談「21世紀への対話」のことでした。
 全世界の学術機関からの池田先生への名誉学術称号の授与は、397の大学・学術機関に及びます(2020年11月現在)。そのほとんど全ての授与式にあたって、授賞理由を挙げる推薦の言葉の中に「21世紀への対話」への言及がありました。
 特に、中国の各大学からお見えになった学長クラスの方々からお聞きしたのは、学生時代に友とともに、この「21世紀への対話」をしっかり読まれたというお話でした。〝文化大革命〟の時代から〝改革開放〟の時代に入った段階での中国の大学生必読書の一つであったともお話しされていました。ちなみに、池田先生に名誉学術称号を贈られた中国の大学は125の大学・学術機関に及びます(2020年11月現在)。その中には、北京大学清華大学、陝西師範大学、上海交通大学、中文大学、南開大学、など、中国の著名な大学が名前を連ねています。この事実は、これからの世界の平和を考える上で、重要な意味をもってくると思います。
 2021年現在、世界に蔓延した「コロナ媧」の中で、特に中国に対する感情が世界的に大きく揺れ動いています。特に、〝冷戦〟終結後、事実上世界に支配的影響力を行使してきたアメリカの変化は顕著です。トランプ大統領から始まるこの動きは、バイデン大統領に代わっても変わりなく、さらに進んでいくようにも感じます。90年代に、ハンチントンが「文明の衝突」の中で予見した方向へアメリカは進んでいます。「文明の衝突」の最終章でのシミュレーションの通り、南沙列島は軍事衝突の可能性をはらむフォールラインとして現実化しています。台湾、尖閣列島を巡る状況も同様です。その中にあって、日本は同盟国としてアメリカと行動を共にしようとしています。果たして、この状況で核時代の絶対条件である、絶対に戦争をしない方向を進めるかどうか。日本国憲法の平和主義が貫けるかどうかが、今問われています。
 この現実を踏まえて人類の悲願である戦争のない世界平和の方向へ、舵を取るためにはどのような視点と行動が必要なのか。この大事な視点を始め、現在人類が直面している問題、2015年に採択されたSDGsの掲げる17のアジェンダを解決する方向に人類が進むために必要な視点と行動の方向性が「21世紀への対話」の中では縦横に語られています。トインビー博士と池田先生が初めて対談したのが、1972年、二度目の対談が1973年、まもなく対談から50周年を迎えることになります。この対談の中で語られていたアメリカ合衆国ソビエト連邦の〝冷戦〟は、語られて予想されていたとおりに終末を迎えました。当時、連日紙面を大きく占めていた〝ベトナム戦争〟も語られ予想されていたとおりに終結しました。そして、対談の中で予想されていたとおり、中国は今や世界一の大国として世界に大きな影響力を与えるようになりました。アメリカ合衆国と中国の間にはさまれ、当時のトインビー博士の言葉によれば「二人の巨人の間に挟まれ、潰されようとしている日本」の状況も、いよいよ現実化しています。さらに、原子力の危険性をあらためて身にしみて認識することになった日本。中国との関係、アメリカとの関係を考えると、日本の進路を考えることが、そのまま世界人類の課題に答えることになるという位置にいるのが現在の日本の置かれた状況であると思います。この時にあたって、池田・トインビー対談の結論を確認し、さらにその発想の根源をたどることの重要性を強く感じています。
 来年、2022年には対談から50周年という記念すべき年を迎える「21世紀への対話」は、どのような経過で実現したのか。対話実現のイニシアティブをとったのは?さらに、トインビー博士の生涯の研究の原点は?トインビ―博士の歴史学とは?・・・等の数々の疑問を丁寧に考えて、答を見つけていく中で、現在進行中である21世紀の根本的かつ焦眉の問題に切り込んでいく視点を、皆さんと共に確認していきたいと思います。