トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

「文明」について 2  

 トインビー博士が、20世紀後半の段階で、現在の地球上に存在する生きた「文明」として提示された「文明」は、まず西欧キリスト教を基盤とする「西欧文明」、ロシア正教を基盤とする「ロシア文明」、イスラム教を基盤とする「イスラム文明」、ヒンズー教を基盤とする「インド文明」、儒教を基盤とする「中国文明」、中国文明の影響をうけて成立した「衛星文明」である、「朝鮮文明」、「日本文明」、「ベトナム文明」を代表としています。

 この中で、その文明の範囲が政治的に統一されている universal state 「世界国家」の段階にあるのが、ロシア、インド、中国、朝鮮(トインビー博士は、10世紀の高麗の統一を朝鮮における世界国家の成立としています)、日本(トインビー博士は、江戸幕府の成立を日本における世界国家の成立とみています)、ベトナム(図説『歴史の研究』では南北統一前で、世界国家の前段階として設定していますが、現在は統一段階にあります)です。西欧文明はまだ「世界国家」の段階にない。EUの現状は、完全な統一国家前の段階ですし、アメリカ合衆国は、北のカナダ、南のメキシコとの関係も経済的に統一するかしないかの段階です。

 この視点と同じく文明単位で「冷戦」終結後の地球全体を見たのが、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」で論じられている世界です。ハンチントンは次のように言っています。

「1980年代に共産主義社会が崩壊し、冷戦という国際関係は過去のものとなった。冷戦後の世界では、さまざまな民族のあいだの最も重要なちがいは、イデオロギーや政治、経済ではなくなった。文化がちがうのだ。民族も国家も人間が直面する最も基本的な問いに答えようとしている。『われわれはいったい何ものなのか』と。そして、その問いに答えるために、人類がかつてその問いに答えてきたのと同じように、自分たちにとって最も重要な意味をもつものをたよりにする。人々は祖先や宗教、言語、歴史、価値観、習慣、制度などに関連して自分たちを定義づける。たとえば、部族や人種グループ、宗教的な共同社会、国家、そして最も広いレベルでは文明というように、文化的なグループと一体化するのだ。・・・・・・・・・・・国民国家はいぜんとして国際問題の主役を演じている。国民国家の行動を方向づけているのは、昔から変わらず権力と富の追求であるが、文化的な嗜好や共通の特徴、相違点も方向づけの要因となっている。現在国家をグループ分けする場合に最も重要なのは、冷戦時代の三つのブロックではなく、むしろ七つあるいは八つを数える世界の主要文明である」(「文明の衝突」p23)

ハンチントンがあげる文明は「西欧」「ラテンアメリカ」「アフリカ」「イスラム」「中国」「ヒンドゥー」「東方正教会」「仏教」「日本」の八つであり、視点の若干の違いはあるが、トインビー博士のあげた文明と一致します。