トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

「文明」について 3

 トインビー博士の「歴史の研究」と、ハンチントン教授の「文明の衝突」の共通点は、「文明」という単位を用いて、全世界をトータルに論じているところです。もちろん、全地球上の全時代にわたる歴史を「文明」という単位からとらえて記述し論じたトインビー博士、現代の国際関係を「文明」という単位から記述し論じているハンチントン教授の違いはありますが、20世紀から21世紀にかけての、国際関係を論じている単位としては、両者の認識している「文明」はほとんど一致していると言って良いと思います。

 このような、「大きな」視点から論じているためジャーナリスティックな興味は集めるが、その視点が一般的に通用する基準として通用するようになったわけではありません。歴史学、国際関係論等、関連する分野からはいまだに一種の「括弧」つきの状態で見られているように感じます。

 この「文明」という視点から、現実の国際関係の推移を見てみると、ここ近年の様々な事件の本質がきちんと見えてきます。例をあげてみると、冷戦終結後の「ソ連の崩壊」「ECからEUへ」「ユーゴスラビアの崩壊」「IS国」「アメリカと中国の覇権争い」「スーダンの南北分離」等、一見すれば関係のない独立した現象と見えますが、トインビー博士、ハンチントン教授が論じているとおり「文明」「宗教」という視点からみれば、その問題の本質がきちんと見えてきます。

 さらに付言すれば、両者の認識において、「日本文明」は中国、朝鮮の影響を受けて成立した衛星文明ですが、現在、世界において七から八ある独立した文明の一つであるが、関係する文明を持たない孤立した文明と見る点でも共通しています。今、日本の前途については、何とはない寂寥感が漂っている感がありますが、この「孤立」している状況を逆に捉え、全人類の文明的課題、「核兵器に象徴される戦争と平和の問題」「環境問題」「生命の尊厳」「人権」等の解決へむけてのイニシアティブを積極的に担う方向で「日本文明」の活路を見出すこともできるのではないかと思います。