トインビー随想

トインビー博士について様々な話題を語ります

21世紀の歴史家トインビー

 古典教育を受けたおかげで、19世紀流の専門崇拝は私にとっては何の意味ももたなかった。この忌むべき慣行に屈したい誘惑に駆られたことすらなかった。政治、経済、宗教、芸術、科学、技術のうちのいずれかの歴史家になろうか、と考えたことはなかった。私の意識的意図的な目的は、一つの全体として人間事象を研究する者になることであった。私は人間事象をいわゆる「学問」に区分することには反対であった。この方針をとることによって、私は十九世紀にも二十世紀にも足をとられないで、十八世紀から一足跳びに二十一世紀に移った、と思っている。過去の伝統は「未来の動向」でもあると、私は確信している。現在われわれが入りつつある人間の歴史の一章においては、われわれの選択は、全世界か寸断された世界かということではなくて、一つの世界かそれとも無かということである。人類は死と悪ではなく生と善を選ぼうとしている、と私は信ずる。それゆえ私は一つの世界が近いことを信じ、そして二十一世紀には人間の生活はそのあらゆる面と活動において再び統一体になる、と信じている。